『絶望を越える想い〜ユトル・バイカン〜』





※注意この作品はリプレイ最終話、魔術師の重奏曲にて行われた最終戦直前の遣り取りをSSにしたものです。

 製作者は団長さんです。





「何と・・・言うことじゃ・・・」



老齢の魔術師ユトル・バイカンは、生まれて初めて絶望を知った。

目の前にいる異形の悪魔は、自分とその仲間を散々翻弄しつづけた邪術師イザベラを一瞬にして塵と変え、その場のマナを吸い尽くしている。

もはや、今の彼に成す術は無かった。

身体に無数の鱗が浮かび上がり、両腕には鋭い鉤爪が。

背中にはこうもりを思わせる翼が6対12翼。

肉体は巨大化し、聖鎧に並ぶほどの巨大さとなる。

<壊焉>の妖将、ヴェール・ゼールが、今その真なる姿を表した今となっては。



「何が・・・・一体何が間違っておったのじゃ・・・・・」



イリスに移り住んでからすぐ、町の少年少女が誘拐される事件。

あの時から運命の歯車は回っていたのか。

それとも、イザベラの父親を死なさなかったらこうは成らなかったのだろうか。

いっそあの時、シャザックに止めを刺しておけばよかったのか。

ユトルの脳裏に、深い後悔と絶望の感情が渦巻いていく。



『さあ……この地に住まう全てのものを消し去ろう』



「!?」



肉体の変化を終わらせた悪魔は、その身を縛る最後の楔を取り除くため、ゆっくりと聖鎧に近づく。

その時、ユトルの脳裏に弟子のシュナのことが思い浮かんだ。



『シュナを弟子にとったとき、あぁ儂も歳を取ったかなどと…呆けたことを感じたものじゃな、今思えば』



子供を育てるという、大変不慣れな作業にもかかわらず、シュナはまっすぐに育ってくれた。



『わーい、お爺ちゃんありがとう!』



『もう、お爺ちゃん!いい加減にしてっ!!』



『御免なさい、お爺ちゃん・・・・』



『楽しいねっ、お爺ちゃん!!』



子供を持つことができぬユトルにとって、シュナは自分の何にも変えがたい宝だ。

そして、目の前にいる悪魔は、シュナと共にすごした日々を、シュナと共に歩いたイリスの町並みを、このままでは滅ぼそうとしている。



『そうじゃった・・・・・儂はシュナと約束をしたのじゃった』



無茶なことをせず、必ず生きて帰ると……けれどこのままでは。

全ては失われる。



『そう、儂は生きて帰るよシュナ。そして、もう一度この手にお前を抱こう』



マナの枯渇したこの場で、果たしてウィザードの自分ができることは無いかもしれない。

だが、諦めては全てが無に帰してしまう。

ユトルは絶望を自ら断ち切り、悪魔目掛けて歩き出そうとした。

すると、その魂に直接話し掛けてくる声が。



『そなたに大切なものがあるならば……我と共に戦い、勝利し、そして、約束の場所へと帰れ』



「!?」



初めて聞くはずの声。

それなのに懐かしく親しみを感じる声。



『白き月の輪に終焉はない……その力に限りなど無い。我と同じ名を魂に刻むものよ、我に答えよ』



ふと足元を見ると、声はその場に転がっている紫宝玉から聞こえてきた。

そして、それは今すさまじい魔力を放っている。

周囲のマナは失われているが、これさえあれば、あるいは・・・・・



「闘える・・・か」



ユトルはそれを拾い上げると、深く頷きかっと隻眼を見開いた。



『汝は妖将を討つ業を背負うものなり……』



「よかろう・・・・其は万物全てが等しく持ち、唯一無二の存在なり!我が名はユーヴァリフ!!妖将を討つ業を背負う運命を受け継ぎし者なり!!」



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