『絶望を越える想い〜イブンサフ・レーベンクイール〜』





※注意この作品はリプレイ最終話、魔術師の重奏曲にて行われた最終戦直前の遣り取りをSSにしたものです。

 製作者は団長さんです。





「こいつ・・・は・・・・・」



その姿を、イブンは酷く億劫に自分の脳へと伝達した。

度重なる鎬を極限にまで削る連戦の後、究極の攻撃を仕掛ける魔装鎧からの攻撃を凌ぎ、やっと助けたミリアの命。

イブンはすでに心身共にボロボロだった。

物心ついたときから使い込まれ、もはや自分の第二の腕とも言うべきフェイントソードが、今はただただ重たく感じられる。



「シャザック・・・・馬鹿野郎が・・・・」

目の前にいるのは、嘗ては国を愛し、其の身を平和のためにと捧げた男の成れの果て。

彼は国を愁うあまり、強大な力を願った。

それが、自分の愛した国を滅ぼすとも知らずに。



『・・・力ではなく、笑顔で勝ち取る平和こそ、尊いものであると気付かぬか・・・仮面の道化』



急速に失われる意識の中で、イブンは好敵手に心の中で叫んだ・・・・・・





『イブンよ。御主はその二本の剣で何を成す?』



深き森の奥で黙々と剣を振るうイブンに、師匠である彼の祖父が唐突に問い掛けた。



『御主は天賦の才がある。その才と我が流派があれば、世を平定するのも不可能ではなかろう』



師匠は答える間を与えずに言葉をつないだ。

どうやら独り言らしいが、自分のことを天才とは・・・・・イブンは剣を振るのを止め口を開いた。



『俺は天才じゃない。カイゼルの方がよっぽど・・・・』



『御主は教わったことを、完璧に己のものにするまで修練を積む。これがなかなか難しいものじゃて・・・・・・それで、御主は何を成すんじゃ?』



ニコニコと微笑む師匠から目線を外し、イブンは手の内にある二本の剣を見つめた。



『俺は、この剣で・・・・・』





「・・・い・・・起き・・・・・ブン・・・・起きろ!!」



「グッ!?」



現実的に痛みを伴う衝撃を頭に受け、イブンは夢の中から意識を取り戻した。

目を開けてみるとそこには・・・・・



「このバカっ!何時まで寝てんのよっ!さっさと起きなさいっ!あんた……アタシを助けに来たんじゃないの?何こんな所でびびって気絶してんのよっ!」



その双眸から涙を流し、自分の頭をポカポカと叩いているミリアの姿だった。



「痛いではないか・・・・・」



「……起きた?起きたら早いとこ、あいつを倒しちゃいなさいっ!カイ君はもう行っちゃったわよっ!」



「ミ……お嬢こそ、起きたなら早くここから逃げろ、この場は危険・・・」



そう言いつつ、イブンは首だけ起こして辺りを見回した。

目の前には嘗ての好敵手の変わり果てた姿。

そして、その異形の怪物に向かいゆっくりと歩んでいく戦友のカイ。



「遅れをとるなっ!イブンサフっ、あんたは最強の剣士なんでしょうっ!」



泣き声でほとんど悲鳴のように叫ぶミリアは、強引にイブンの身体を立たせて押し出した。



「ああ、そうだな・・・」



立ち上がったイブンは、ふと、自分の頬から零れ落ちる水滴を掌で受け止めた。

それは、ミリアが流した彼女の涙。

それが自分の流した血と混ざり合って、綺麗な紅を彩っていた。



「・・・・・フッ、最高の戦化粧になるか」



万感の思いでそれを頬に塗り、イブンは二本の剣を手に構えた。



「あたしは知ってる……あんたが最強だって。だから……あんなのに負けるな」



ミリアのつぶやきを背に受け、イブンもまた歩き始める。



「これは、わが爪にして、わが翼。時に高みへ至る羽ばたきを、時に雛を護るためにある・・・イリスの三強が一人、二爪流幻梟剣のイブン。いざ、参る!!」



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